出会い
いつが出会いなのか、僕は今でもよく思い出せない。もしかしたら出会いではないのではないかも、と考えたりするのだが、ここは僕の家の中だ。もしも、見たことも話したこともない女性が家の中に入っていたら、それはそれで大変なことだ。自分は昨日の夜、何かしてしまったのではないか、と不安になった。しかし、僕は昨日の夜は友人と出会い後、お酒は生ビールを八杯飲んで、まっすぐ帰ってきたはずなのである。その間には、誰にも出会いがない。女性だけでなく、男にも、犬にも、猫にも、車にも、だ。何一つ出会いすることなく、僕は自分のアパートまで戻ってきたはずだ。もしかしたら、気付いていないところで、誰かと出会いしたかもしれないが、それは厳密には「出会い」とは言えないだろう。しかし、目の前に、僕のベッドの上に一人の女性が眠っているのはどうやら本当であるらしい。時折、息を長く吸う音が聞こえてくるので、何かのマシンであるかもしれないと耳を傾けると、それは単調ではなく、毎回リズムの違う息づかいをしているので、紛れもなく、人間の仕業のようであった。この意味不明の出会いに僕は頭が軽く混乱したので、何事も無かったような顔を無理に作って、オスカーピーターソンをかけて、ハイライトに火を点け、ベランダに出た。
そんな出会いについて考えてみた。統計的に考えてみた。つまり出会い系。僕のこれまでの出会い系の中でもこの出会いは特徴的なものだった。ないより、まず、出会いの記憶がないのだから。出会いの覚えがないのに、目の前には女の子が一人、僕のベッドで眠りこけている。僕はいわゆる出会い系サイトなんか使ったことがない。最近、仕事に忙しかったせいで、女の子のこともあんまり考えたこともなかった。しかし、目の前には知らない女の子。一体何なんだ。ちょうど一本吸い終わるころ、ベース音で始まる次の曲が始まり、その音を聞いた彼女は、少し体をひねって、声を出した。僕のそんなに多くない出会い系統の中でも、これは本当に特別だ。しかし、同時にそれは特に変わったもののようにも思えなかった。自然な感じもしたのだ。そこには二人の変な会話も無かった。家の中に入るまでの緊張感も無かった。気付いたら、そこにいたのだから。いや、むしろ、これは新手の出会い系のやり口なのかもしれないとも、思った。まあ、それなら、それで、楽しくなりそうだなと僕は思った。こんな出会い系だったら一番いい。気付いたときには、そこにいる。出会うために色々と手を考えるのではなく、いきなり出会いが始まる。とは、言っても、まだ何も会話もしていない状態なので、この子が一体なぜここにいるのかは当然、まだ分かっていないのだが。
僕は携帯で友人に電話をかけた。出会い系サイトを運営している会社でアルバイトをしていると、この前酒を飲んだ時に言っていたからだ。どうやら、彼ははじめは出会い系サイトの会社だとは思っていなかったらしい。システムエンジニアのアルバイトと思って入ってみたら、出会い系サイトだったということだった。で、はじめは、真面目な会社じゃないと、がっくりしてしまったのだが、次第に、出会い系サイト自体に興味を持ち始め、今では率先して仕事に取り組み、そろそろ独立してやってみようかな、などと言っていた。彼だったら、おの新手の出会い系のことも知っているかもしれない。まだ、彼女が出会い系サイトから送り込まれたサクラの女の子なのかはよくわからなかったのだが、かと言って、自然発生的に女の子が僕の家に芽生えたとは考えられないので、やはり、何かにはめられているのだろう。とにかく僕は友人に電話をかけた。友人はすぐに電話に出た。
「おっ、久しぶり。どうしたの」僕はいきなりこのことを伝えた。
「なんだか、気付いたら、見たこともない女の子が僕のベッドで寝ているんだよ。これ、新手の出会い系サイトかなんかじゃないよね」
「何いってんの。そんな出会い系サイトなんかあるわけないだろ。出会うまでに駆け引きがあるから、仕事になるんだからさ。いきなり、ベッドで寝てたら、出会い系サイトの意味ないじゃん。それ、出会いっていうか、お前拉致かなんかしちゃったんじゃないの?」
そう考えたら、勘違いされてもおかしくない状況であった。とりあえず、僕は電話を切って、もう一本ハイライトに火を点けた。
その掲示板に書かれているのを読むと、どうやらその出会い系サイトの名はズバリ「出会いサイト」というものであるらしい。しかし、その出会いサイトが一体どんなサービスを行っているのかは、見当がつかない。いわゆる「出会い系」ではないわけだ。ただの「出会い」だけなのだから。「出会いサイト」ができたのはそんなに古いものではないらしく、まだ登場してきて半年ぐらいなのではないかと、掲示板の情報ではでていた。しかし、それを利用した人間がいるのか尋ねても、誰も経験をしたことはなかった。というか、それは意識的にやってみようとおもってできるようなものではないのかもしれない。いきなり突如、出会うのだから。「出会いサイト」には一体何の意図があるのだろう。それではサービスとしての効率も非常に悪いだろうし、本物の女の子を送り込まなくはいけない。これはとても骨の折れる仕事のはずだ。掲示板の中でも「出会いサイト」というものがあるにはあると聞いたことはあるが、ただの噂である、との認識であった。しかし、僕は目の前の女の子が「出会いサイト」から送り込まれているとしたら、噂ではなく、本当ですね、と掲示板に書き込むが、結局は誰も信じてくれなかった。それはそうだろう。そんなこと本当に起きたら、大変なことだ。しばらくしたら、怖い兄ちゃんが家を訪ねてきて、法外な値段を請求されるってことになるのかもしれない、と僕はふとそう思ったが、不思議と不安ではなかった。
